TOPアコムが悪意の受益者となるか否かを判断した最高裁判決
みなし弁済成立の要件のひとつとして、書面の交付と記載があります。そして、改正前の貸金業法17条により金銭消費貸借の契約時に交付を義務付けられていた、いわゆる「17条書面」には、「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」の記載が義務付けられていました。しかしアコムは平成13年10月まで、これらの記載をしていませんでした。
アコムの悪意の受益者性を判断した最高裁平成23年12月15日判決を理解するためには、その前に、17条書面(貸付時の契約書)に必要な記載事項が争われた最高裁平成17年12月15日判決(以下、平成17年判決といいます。)を理解する必要があります。
貸金業者から、17条書面に返済期間及び返済回数及び各回の返済金額の記載をすることは、借入れと返済を繰り返す極度額設定リボ契約の場合は不可能であるから、それ以外の内容が記載された書面を提出していれば、みなし弁済規定が適用されるという主張がされることがありました。平成17年判決の事案においても、貸主はこの主張をしました。
具体的には、貸主は「本件基本契約は,返済方法について返済額の決定を被上告人(借主)にゆだねる内容となっているため,上告人(貸主)において法17条1項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や施行規則13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」を記載することは不可能であるから,上告人が被上告人に対して法17条1項所定のその余の事項を記載した書面を交付していれば,17条書面を交付したことになるのであって,本件各弁済は法43条1項の規定の適用要件を満たしており」過払い金は発生しないと主張しました。
しかし、この貸主側の主張に対して裁判所は「仮に,当該貸付けに係る契約の性質上,法17条1項所定の事項のうち,確定的な記載が不可能な事項があったとしても,貸金業者は,その事項の記載義務を免れるものではなく,その場合には,当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり,同義務を尽くせば,当該事項を記載したものと解すべきあって,17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべき」であり、そして、「個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである」と判示しました。
つまり、リボ契約の場合のように、返済期間とか各返済時の金額などを17条書面に記載することが不可能であるなら、代わりに個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間・返済金額等、返済期間とか各返済時の金額などに準じた事項を記載するべきであると判示したのでした。
上記の最高裁平成17年判決を前提として、最高裁平成23年12月15日判決の事案では、アコムの悪意の受益者性が争点となりました。
アコムは、平成13年10月までは、17条書面に「返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載」をしていませんでした。しかし、この判決の原審である東京高裁平成23年3月28日判決においてアコムは、貸金業法17条書面に返済期間・返済金額の記載に準ずる記載が必要であると判断された平成17年判決が言い渡されるまでは、17条書面記載すべき事項についての下級審の判例は分かれており、また、監督官長は、17条書面には、契約時に特定できる事項のみを記載すれば足りるという通達を出していたから、このような「準ずる記載」がなくとも、みなし弁済の適用は否定されないとの認識を有していたのであり、最高裁平成19年7月13日判決でいうところの「特段の事情」があるから、アコムはこの判決以前は悪意の受益者ではないと主張し、勝訴していました。
しかし最高裁は、アコムの上記主張を認めず、アコムは平成17年12月15日判決以前においても悪意の受益者にあたると判断しました。アコムが17条書面に返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないということはできず、平成19年判決に言う特段の事情はないと判断したものです。
その理由としては、貸金業法17条が17条書面に返済期間・返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は、これらの記載により、借主が自己の債務の状況を認識し、返済計画を立てることを容易にすることにあると解されるが、そうであれば、上記平成17年判決に言う「準ずる記載」をすることが上記の趣旨・目的に沿うものであることは、平成17年判決の言渡し日以前であっても、貸金業者において認識し得たというべきであること、また、リボルビング方式の貸付については返済期間・返済金額の記載に準ずる記載がなくてもみなし弁済が成立するとの判例や学説が多数を占めていたとはいえないことなどを挙げています。
この判決が言い渡されたことにより、平成13年10月の時点ですでに過払いが発生しているようなアコムとの取引においては、アコムが悪意の受益者ではないという主張をする余地はなくなったといえるでしょう。
過払い請求において争いとなる点について、以下のページで解説しています。
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